開催趣旨

滋賀県甲賀(こうか)市に所在する天台宗の古刹、櫟野寺(らくやじ)は、重要文化財に指定される平安時代の仏像が20体も伝わります。その数は、優れた仏像が数多く残る滋賀県でも特筆されます。特別展「平安の秘仏-滋賀・櫟野寺(らくやじ)の大観音とみほとけたち」は、20体すべてを寺外で展示する初めての機会です。本尊の十一面観音菩薩坐像は像高が3メートルもある圧巻の作品で、普段は大きく重い扉に閉ざされる秘仏です。重厚感ある堂々とした姿ですが、美しい顔立ちは、見る人に安らぎを与えることでしょう。その十一面観音とともに2.2mある薬師如来坐像が並ぶ様子は壮観といえます。他にも、11体の観音や、どこか親しみのある毘沙門天立像、文治3年(1187)に造られたことが知られる貴重な地蔵菩薩坐像なども出品され、櫟野寺に伝わる平安彫刻の傑作を一時にご覧いただける展覧会です。


白洲正子(しらすまさこ)氏は著書『かくれ里』で、街道から少し外れたひっそりとした里に光をあて、その中で櫟野寺も取り上げました。櫟野寺のみほとけたちは、櫟野(いちの)の里にまだ残るかくれ里の空気を上野に運んでくれることでしょう。


重要文化財 十一面観音菩薩坐像 平安時代・10世紀 滋賀・櫟野寺蔵

1.日本最大

重要文化財では日本最大!

櫟野寺の本尊は、重要文化財に指定された坐像の十一面観音菩薩では日本最大。像高は3.12mもありますが、頭と体は1本の木から彫り出されています。台座・光背も含めると5mを超えます。


重要文化財 十一面観音菩薩坐像 平安時代・10世紀 滋賀・櫟野寺蔵

重要文化財 十一面観音菩薩坐像 平安時代・10世紀 滋賀・櫟野寺蔵

2.初公開

寺外初公開の秘仏!

本尊の十一面観音菩薩坐像は大きな厨子に安置され、普段はその重く大きな扉は固く閉ざされています。本展覧会で、秘仏である本尊が初めて寺外で公開されます。


十一面観音菩薩坐像の特別開帳時の様子

住職が十一面観音菩薩坐像の前で説明(特別開帳時)

3.全20体

重要文化財の全20体が出陳!

十一面観音菩薩坐像をはじめ、櫟野寺所蔵の重要文化財の平安仏20体が、初めてすべて出陳されます。2mを超える薬師如来坐像など、平安彫刻の傑作が一堂に会します。

重要文化財の全20体が出陳!

(らく)()()について

滋賀県甲賀(こうか)市に位置する天台宗の古刹、櫟野寺は、
延暦11年(792)に最澄が延暦寺(えんりゃくじ)の建立に際して良材を求めて当地を訪れ、
(いちい)の霊木に観音像を刻んだことがその始まりと伝えられます。
鈴鹿(すずか)山脈に連なる油日岳(あぶらひだけ)の山麓に位置し、
すぐ近くを琵琶湖(びわこ)に注ぐ杣川(そまがわ)が流れるという立地は、
世俗を離れ比叡山中で修行した最澄が、良材を求めた場所としてふさわしく感じられます。
征夷大将軍の坂上田村麻呂が山賊追討の祈願成就をよろこび、堂塔を寄進したとの伝承も残ります。
また、白洲正子氏が「かくれ里」とも呼んだこの櫟野(いちの)の地には、
櫟野寺を拠点として数多くの天台寺院が建立され、
豊かな仏教文化が花開いたのでした。


秘仏本尊の十一面観音菩薩坐像はその制作が10世紀後半に遡るため、
そのころには櫟野寺が甲賀における仏教文化の中心であったことが知られますが、
本尊含め重要文化財に指定される平安仏は20体にも及びます。
これら平安仏が林立する光景を前にすれば、
かつて末寺として七坊を誇ったという名刹、櫟野寺の栄華がしのばれるでしょう。


撮影=藤原弘正

重要文化財 薬師如来坐像

重要文化財 薬師如来坐像

平安時代・12世紀 滋賀・櫟野寺蔵

重要文化財 地蔵菩薩坐像

重要文化財 地蔵菩薩坐像

平安時代・文治3年(1187) 滋賀・櫟野寺蔵